僕と彼女との出会いは衝撃的なものだった。
あまりに平凡な日常を過ごしていた中での出会いであったため、普通の人が感じるであろうよりも大きな衝撃を感じずにはいられなかった。またこのとき、僕は彼女との出会いによって大学生活が明るいものになるだろう、ずっと一緒にいられるだろう、そのように考えていた。
彼女はいつも僕のそばにいてくれた。大学の授業があって離れなければいけないときも、いつも僕を笑顔で迎えてくれていた。大学の外では待ち合わ
せをすることもあった。時々いなくなることもあったけれども、そういう時はいつも彼女はどこへ行くかの書置きをしてくれていた。彼女の行き先はいつも決
まって千本三条だった。何が彼女を千本三条に引き付けるのかは分からなかったけれども、とにかく彼女はよくそこへ行った。
僕は彼女の前ではできる限り煙草を吸わないことにしていた。彼女はいつも白い服を着ていた。真っ白な服だった。その服を僕の煙草の煙で汚してし
まったり煙草の臭いをつけてしまうのはいささか気が引けたし、なにより彼女があまり僕が煙草を目の前で吸うのを嫌がっていたのだ。
僕にとって彼女という存在は気がつけば非常に大きなものとなっていた。いつも近くにいて、安心感を与えてくれ、ずっと彼女と一緒にいられると思っていた。
そして別れも突然だった。
先日のことだった。いつものように大学の授業を終えると、僕は時計台下の生協前に行き、マルボロをふかし、小岩井いちごを買って飲んだ。そして
経済学部地下の同好会室へ行き、自分の鞄に荷物を詰めて待ち合わせ場所へと向かった。少し待ち合わせの時間を過ぎてしまっていたが、僕は気にしなかった。
待ち合わせ場所に彼女はいなかった。僕はひどく焦り、ひどく混乱した。彼女が僕の前から書き置きもなしに突然居なくなることなんて今までなかっ
たからだ。僕は頭の中が真っ白になった。そしてひどく吐き気がした。まるで頭の中を洗濯機にかけられているような感覚だった。何が起こっているのか分から
ず、それが去るのをただ待たなければいけなかった。
嵐が去るのにそれほど時間はかからなかった。僕はポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつけた。2、3口吸うと少し平静を取り戻したので
すぐに煙草の火を消した。僕は全てを理解した。あるいは何も理解できなかったというべきかもしれない。理解とは、常に誤解の総体に過ぎない。分かっている
ことと同じくらい、そのことについては知らないことがあるのだ。
そういえばここ最近、彼女の行動は少しおかしかった。いつも身につけていたアクセサリーをある日突然捨てたし、傷ついた状態になることもよく
あった。僕はその度にひどく心配したし、治療も行っていた。僕は彼女の全てを理解しているつもりになっていただけなのかもしれない。
とにかく彼女は僕の前から居なくなってしまったのだ。これは僕にはどうしようもない事実だし、僕は立ち止まっている訳にはいかなかった。思い返
してみると、彼女はつくづく世話の焼けるやつだった。僕はこれからは彼女の世話を焼くことすら出来なくなってしまったのだ。彼女は元気にやっているだろう
か。居なくなる前から僕なりには大切にしていたけれども、居なくなって初めて彼女がこれほどまでに僕の中で大きな存在となっていたことに気づかされること
となった。この想いを胸に、新たな一歩を進まなければならない。
そして僕は自転車屋へと向かった。新しい自転車を買うために。